○ようやく夏の神戸での講座の案内文を書く。

 「映像で学ぶ侵略の歴史と加害の実態」として,ただちにガッシン。

 これは専門領域の話ではないし,時間の半分はビデオをながめる予定。

 ちょっとラクをしすぎになるかも知れない。

岩井忠熊『陸軍・秘密情報機関の男』(新日本出版社,2005年)を読み終える。

 主人公の「男」香川は著者の義理の兄になる。

 亡くなる直前まで書いた,香川の大学ノート13冊が本書の出発点。

 兄弟にさえ体制批判の左翼思想に突き進む者がおり,他方,社会には「昭和維新」をめざす軍人がいる。

 外には侵略を拡大し,内には抑圧を強める時代の中で,香川はあたりまえのように家族を気遣い,同じくあたりまえのように軍の「情報活動」に加わっていく。

 活動の周辺には,満州国軍の軍人として後の韓国大統領・朴正煕が登場し,日本との提携によってインドの独立をはかろうとしたチャンドラ・ボースが登場する。

 結局,インドの独立は日本やドイツのファシズムを批判していた国民会議派が主体となってすすむのだが,とはいえボースはたんなる日本の傀儡ではない。

 敗戦の中にあっても部下を見捨てるようなことはせず,日本のある中枢部の軍人によっても,真の「英雄」と語られている。

 ドイツ・イタリア政府から,自分がまったく関与しない出来事を理由に勲章を送られ,これをただ大喜びした東条英機とは大違いである。

 こうして戦時中の情報活動に従事した者には,戦後,CIAとかかわりをもち,ベトナム戦争がらみの仕事をした者もいるという。

 日本史家の手になる歴史の本ではあるのだが,小説ででもあるかのように読ませる筆力と構成は見事である。