椎名誠『波切り草』(文藝春秋,2006年)を読み終える

シーナの自伝的小説,少年時代編である。

単純ではない家族とのかかわりが舞台背景。

中学時代,シーナが頼りにしていたのはツグモ叔父。

浜の小さな掘っ建て小屋に,1人だけで暮らしている。

海へ出たり,大工仕事をしたり。

その手の技術がまぶしく見えた。

高校は土木科に入り,寮生活をはじめていく。

長兄に「お嫁さん」がきて,しばらくして子どもが生まれる。

その一方で,ようやく自分の部屋を手に入れた,すぐ上の兄が家をとびだしていく。

寮生活にも慣れたころ,ツグモ叔父が,片足の先を事故で失う。

そもそも悪かった方の足である。

叔父は,世話をしてくれるタエさんのつてで九州に向かうことになる。

シーナにも,互いに「好きだ」といいあえる「栄さん」がいた。

1つ年上のおねえさん。

その「栄さん」も,突然,遠くに転校になる。

聞いてはいけない事情があるらしい。

最後の思い出にと,2人で川を泳いで渡る。

流されながらも向こう岸へ。

大切な人たちとの別れをかみしめながら,少年シーナは大人に近づく。

いろいろあっても,それをふくんで生きていくしかない。

本のそこここに,珍しく,切なさのこもった作品である。