アンリ・クロード『アメリカ帝国主義の史的分析』(社会書房、1952年)を読み終える。

 マルクス主義の立場からのアメリカ分析として、かつて高い評価を得たものらしい。

 アメリカが「帝国主義」として自らを急速に整備していく過程、またイギリスなどヨーロッパ帝国主義との対抗関係の歴史は面白い。

 とはいえ原著刊行(50年)から、すでに60年に近い年月が流れている。

 特に、資本主義社会の大局的な変化の理解において、小さくない弱点が見えてくるのも当然といえる。

 たとえば、アメリカ帝国主義の成長は、戦後も一路凶暴化の過程としてのみ描かれている。

 それは、戦後世界が「全般的危機」の度合いを深めたとすることとの整合性さえ欠くほどである。

 そのようなアメリカの凶暴化論には、「冷戦」形成期におけるヒステリックな反共主義が反映しているところもあるのだろう。

 また植民地体制の本格的な崩壊が、その後のこととなるのも事実である。

 しかし、たとえそうであったとしても、アメリカが重要な役割を果たした大西洋憲章や国連の成立および国連憲章に対する分析がどこにもなく、男女共通の普通参政権が確立していく戦後民主主義の発展や、植民地独立の闘争などに対する言及がないのは残念である。

 第二次大戦も基本的には帝国主義諸国間戦争としてのみとらえられているようであり、独占資本主義と帝国主義戦争の不可分性の指摘も行われている。

 大変なエネルギーを注いで描かれた著作であることはまちがいないが、現実をとらえる視角そのものが、最初からレーニンの帝国主義研究の成果に深く制約されてしまっている。

 「新しい現実の新しい分析」。

 これが口でいうほどたやすいことでないのは確かだが、過去の認識を現在にあてはめて満足する教条主義、型紙主義、解釈主義の歴史の存在は、決して簡単に忘れて良いことではない。

 期せずして、そのような読後感を得る一冊となる。