在日米軍基地の再編・強化と闘う岩国市を、国が「補助金」「交付金」でしめあげている。

 地方自治を国がしばっていいと、いったい憲法のどこにあるだろう。

 地方の政治は、地方住民の「自治」によって決まるもの。

 国が介入できるものではない。

 すでに、岩国商工会議所会頭ら基地受入れ派による市長選準備の動きがある。

 沖縄の新聞は、岩国の現実を「わがこと」として受け止めている。

 さて、われわれはどうなのだ。

 沖縄タイムス・社説(2007年12月29日朝刊)

[岩国市長辞職]

よそごととは思えない

 山口県・岩国基地への空母艦載機移転に反対している岩国市の井原勝介市長が二十八日付で辞職した。井原市長は「(米軍)再編問題についてあらためて民意を問いたい」と来年の出直し選挙への出馬を表明した。

 艦載機受け入れをめぐる岩国市の苦悩は、国の基地政策に翻弄され続けてきた経過が沖縄とよく似ていて、とてもよそごととは思えない。

 在日米軍再編計画によると、厚木基地(神奈川県)の空母艦載機五十九機は、建設中の沖合滑走路が完成したあと、二〇一四年までに岩国基地に移転する予定である。

 岩国市は昨年三月、受け入れの是非を問う住民投票を実施、反対が圧倒的多数の89%を占めた。

 合併による新市発足に伴う昨年四月の市長選で井原市長は「移転案の撤回」を公約に掲げて立候補し、推進派候補に大差をつけて当選した。

 この二つの結果から見ても民意は明確だと言えよう。当選後、市長が受け入れ反対の姿勢を示し続けたのは当然である。

 しかし、政府は市長の移転反対を理由に昨年十二月、市役所新庁舎建設補助金約三十五億円を打ち切った。兵糧攻めである。

 市庁舎は本年度末に完成予定である。あてにしていた補助金を打ち切られたため、市は窮地に追い込まれた。

 穴埋め財源の予算化をめぐって、推進派議員が多数を占める市議会との対立が続き、長引く市政の混乱が問題になっていた。

 実は、この補助金は日米特別行動委員会(SACO)の合意に基づいて、米軍普天間飛行場所属の空中給油機十二機を受け入れる見返りとして交付されてきたといういきさつがある。

 一年目、二年目は交付されたが、米軍再編計画に反対の姿勢を明らかにしたため、三年目にカットされた。

 それだけでなく岩国市は、米軍再編推進法に基づく再編交付金の交付対象自治体からも外されている。

 国の言うことを聞けば金を出すが、そうでなければ補助金も米軍再編交付金も出さないという「アメとムチ」の政策だ。

 県内では、陸上自衛隊による米軍キャンプ・ハンセンの共同使用に反対していた金武町、宜野座村、恩納村が一転して受け入れを表明したため、再編交付金の交付対象となった経緯がある。

 井原市長の再度の立候補に対して有権者はどのような判断を下すだろうか。市長選の結果によっては米軍再編問題の根幹を揺るがす可能性もある。岩国市民の民意の行方に注目したい。

 移転容認派、福田衆院議員に出馬要請へ 岩国市長選(朝日新聞、12月28日)

 在日米軍再編に伴う空母艦載機移転に反対する山口県岩国市の井原勝介市長(57)の辞職に伴う出直し市長選で、移転容認派の市民団体や市議らは28日、同市を含む衆院山口2区選出の福田良彦衆院議員(37)=自民=に立候補を要請する方針を決めた。29日に福田氏に伝える。井原氏はすでに立候補を表明しており、空母艦載機移転の是非をめぐって容認派と反対派が対決する構図が固まった。

 福田氏は27日夜の朝日新聞の取材には「いろいろな人から打診されている。だが、(立候補の)予定はない」と慎重な姿勢を示した。しかし容認派市議のひとりは「いずれ要請を受け入れてくれるという感触を得ている」と話している。

 福田氏に立候補を要請するのは「岩国の明るい未来を創る会」。岩国商工会議所会頭や元会頭、自治会の連合会長らが個人として参加し、井原氏の辞職前には解職請求(リコール)の準備もしていた。井原氏が26日に辞職を表明した後、対抗馬の擁立を検討。「井原氏に対抗できるのは、知名度の高い福田氏しかいない」と判断した。

 福田氏は岩国市出身。衆院議員秘書を経て99年の岩国市議選、03年の県議選でそれぞれ初当選を果たした。郵政民営化問題が争点になった05年の総選挙で衆院山口2区から立候補。民主前職を588票差で破った。

 福田氏が立候補した場合、衆院山口2区は来年4月に補欠選挙が行われることになる。

 同市では、空母艦載機の移転に反対する井原氏と容認派が多数を占める市議会が対立。国が市庁舎建設の補助金交付を見送ったため、井原氏は合併特例債で財源をまかなう予算案を繰り返し提案したが、いずれも否決された。井原氏は行き詰まった状況を打開するため、辞職に踏み切り、出直し市長選への立候補を表明した。