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ワルモノ バリを行く  2003

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 テロ(2002年10月12日,バリ島のディスコ)の勃発から,サーズ(SARS)の流行。

 昨年末から今年の春にいたる,インドネシア・バリ島をめぐる社会情勢はきわめてきびしかった。

 「今年は無理だな」。年に1度の「超絶極楽体験」をあきらめねばならない,春のわが家の気分はきわめて重かった。

 しかし,次第にサーズは収束の方向に進んだ。少なくともバリ島には,その危険はほとんどない。

 憎むべきテロの危険は残ったが,これはほとんど予測不能。逆にいえば,日本が安全という保証もないということである。

 そして,「今年もバリへ行こう」。

 このスローガンが,「さいわい今年は旅費がやすい」という不幸中の幸いにおされて復活したのは,すでに夏の気配が見えるころ。

 こうして,すべてのしがらみをふりきっての「ワルモノ バリを行く」は,2003年の今年も,なかばヤケクソで決行されたのであった。

 

2003年9月8日(月)

 7時30分ころから,何度も目がさめる。

 どうにか9時半までは布団にしがみつき,立ち上がってからはいつもの行動をとっていく。

 メールをチェックし,ヨーグルトとコーヒーの朝食をとる。

 シャワーをあび,リュックに荷物をつめる。

 着替えと,洗顔道具と,何冊かの本。

 むこうでの毎日の洗濯を前提すれば,必要なものは多くない。

 いわゆる「トランク」類とは,まるで無縁の人生である。

 「おだらけ旅行」なので,明日からはヒゲもそらない予定である。

 そう思うと,今日そることも無駄に思えて,ヒゲは今朝からそのままにした。

 組合がらみの連絡をひとつして,11時すぎには,相方とともに家を出る。

 「めざせ,バリ2003」のはじまりである。

 JR「加島」から「尼崎」へ。11時35分には,「尼崎」駅前からの空港バスに乗る。

 天気はいい。大きな窓から見える,大阪の景色がやたらとまぶしい。

 ボォ~ッとしているうちに,12時40分には空港に着く。

 あっさりと各種手続きを終え,アホバカ本など,ちょいとした買い物をする。

 慣例にしたがい「そじ坊」でそばを食べる。

 コリコリとわさびをおろしつつ,「ああ,日本食はしばらくなしだなあ」との気分を味わい,

 そして,その気分をただちに忘れて,夢中でツルツルそばに没頭する。

 2時30分には,離陸である。

 早くも4時には,機内食が配られはじめる。

 ここで食っては,JALの思うつぼである。

 このJALによる「乗客ブロイラー化作戦」および「お前ら,食ったらとっとと寝ろ作戦」に抵抗すべく,キッパリと食事を断る。

 そして,ワインのミニボトルをもらって,機内「中島らもの人」となる。

 調子にのって,あっけなく読み終えてしまう。

 まだ機内の缶詰時間は長いというのに。

 もっもと,それだけ本に中身がない,ということにもなるかも知れない。

 しかたなく,ワインによる眠気と闘いつつ,気難しい顔つきで「マルクスの人」となる。

 その後,配られた,アイスモナカはありがたくいただく。

 モナカでマルクス,46才。

 JALには手ごわく見えたにちがいない。

 9時には,バリ島のデンパサール国際空港に到着。

 時計の時間を1時間だけもどしていく。

 預ける荷物がなかった軽装備のわれわれの行動は簡単である。

 リュックをかついで空港を出る。

 ガイドさんの話を聞きながら,なつかしい町並みをながめ,現地時間の9時には,インターコンチネンタルホテルにチェックイン。

 とっとと部屋に入る。

 このホテルは3回目である。

 だが,ホテル入り口には,クルマを遮断するゲートが新たにつくられ,何人もの警察官が待機していた。

 「テロ」への警戒であろう。

 複雑な気分になるが,警官たちがにこやかでいてくれることが,ありがたかった。

 さっそく甚平に着替えて,ビーチサイドのビール屋に行く。

 どうしたわけか,やっていない。

 仕方なく,プールサイドの「こじゃれ地域」にもどってみる。

 ホテルのなかの食い物は高い。

 そして,なにより,食い物にせっかくのバリ色がない。

 これでは,何しにきたのかわからない。

 まったくもって,なんてこった。

 とはいえ,落ち着いてみれば,波の音,潮の香り,暗い空にみえるバリの星。

 これらは,やはり心に優しい。

 肌にからみつく独特の湿気を感じながら,急速な気分転換の1日は,おだやかに終わっていく。

 中島らも『牢屋でやせるダイエット』(青春出版会,2003年)を読み終える。

 「ダイエット」となっているが,実際のところ,らもは牢内の寒さに対抗すべく,懸命に食べて,体重を4キロもふやしたそうだ。

 牢内の様子,そこで考えたことなどが,例によって,おもしろおかしく描かれる。

 バカだなあと,いつも思うが,それを好んで読むこちらも,同じようにバカなんだろう。

 

2003年9月9日(火)

 朝8時。

 ポコペコカクキコという,ガムランの音に起こされる。

 ベランダに出ても音源は見つからない。

 しかし,テープということも考えられない。きっと,中庭のどこかで演奏しているのだろう。

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 中庭の大きな池に,観光客の子どもたちがパンをなげている。

 これを目当てに,たくさんのサカナが集まり,水のうえには,大きな白鳥や黒鳥も集まってくる。

 水面をはさんで,上下からのパンの奪い合いである。

 のどかである。

 そう思った瞬間,スッととんできた鳥が,水中のサカナをばっくりと口にはさみこみ,ホイッとどこかへ消えていった。

 鳥やサカナの世界にも,いろんなことがあるようである。

 空を見上げると,意外にも大きな黒い雲。

 これが,陸から海へと流れていく。こちらでは,初めてながめる光景である。

 今に晴れるのだろう。

 そう思っていたが,10時すぎに外に出ると,なんと小雨が落ちてきた。

 バリで雨を見るのは初めてである。

 「雨が降るのは1月だけ」といっていた,去年のガイドさんの言葉を思い出す。

 気持ちよくぬれながら,ホテルを出て,買い物に行く。

 近くの超庶民派テイクアウト屋さんと,観光客相手のコンビニである。

 テイクアウト屋さんでは,ショーウィンドーにならんだ10数種類の料理から,適当に「食ってみたい」ものを選んでいく。

 言葉はまったく通じず,互いに人なつっこく「指さし確認ヨーシ」の世界である。

 これと対照的に,なんとも愛想のないコンビニでは,とりあえず食事に必要なスプーンや,当面の缶ビールなどを買っていく。

 部屋にもどって,ベランダで食べる。

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 朝昼兼用の食事である。

 うまい。しかし,辛い。

 バクバク食うと,ハナミズと首筋からの汗が,はかったように同時に流れでてくる。

 バリ的激辛食物突如投入に,我が日本的胃袋大混乱といった様子である。

 ひさしぶりの長粒種のしろいゴハンが,これまたうまい。

 少し本を読んで休憩し,1時半にはプールに入る。

 今年初めてのプールである。

 3月の引っ越しのために,わが家のまわりからはプールが消えてしまった。

 当然のように,からだの動きはギクシャクものだが,それでも,「日本のハジ」をさらさぬ程度にはプカプカ泳ぐ。

 ビーチのマットにぐったりと横たわり,なぜか「マルクスの人」となる。

 あいかわらずの小雨模様である。

 しかし,気温は高く,雲のあいだから顔を出す太陽の力も,けっして弱くはない。

 アイスクリームを食べる。これが,買った瞬間に,すでに溶けかかっているという代物なので,運搬が大変である。

 4時には部屋にもどり,ウダラウダラと夕方をすごす。

 TVのディカバリーチャンネルで「ハイエナのがんばり」に感心する。

 7時には,ビーチを歩いて,ホテルの隣のシーフード屋台群に突撃する。

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 なつかしい店たちである。

 「この店だったよなあ」とキョロキョロしていると,去年,何度も話をした店の青年が覚えていてくれる。

 まだ10代後半だと思っていたら,実は,すでに22才。

 耳にはあらたにピアスもとおっていた。

 テロとサーズで観光客がへり,「今年のバリは悲しい」と,日本語を思い出しながら話してくれる。

 朝とれのサカナや海老を,ともかくなんでも焼いて食べる。

 それでいて,料金はホテル内での食事の1/10に近い。これを味わわずして,なんのバリぞ。

 黒いライスワインにも挑戦してみる。去年,ビンで買って,飲みきれなかったもの。

 黒いのは,米のカラが黒いからだそうだ。独特のネットリとした甘さがあるが,今回はスンナリとのどを通る。

 日本の空よりズッと高いところに,月と火星がならんでいる。

 サカナを焼くケムリのにおいを,タップリと甚兵衛にしみこませて,9時すぎには部屋にもどる。

 ディスカバリーの特集は「エイ」にかわっていた。

 11時前には,グッタリと寝る。

 

2003年9月10日(水)

 起きて,寝なおして,また起きたところで,ゆったりとした世間は11時になっていた。

 驚いたことに,今日も雨。

 どうなっているんだ,今年のバリは。

 バリの雨季は10月~12月で,だから9月にも少しは雨が降ると,夕べの屋台では教えられた。

 予期しない状況なので,なんだか,どう受け止めていいかわからず,気持ちが曖昧にゆれる。

 昼をすぎたところで,外に出る。

 去年もお世話になった,超庶民メシ屋をめざしてみる。

 腕力の強い,小さな女の子がいるハズだ。

 そう思って,関空で買い込んだアメ玉も用意していく。

 しかし,店は開いていない。そういえば,昨日もやっていなかった。

 8日の夜に,クルマで前を走ったときには,たしかに明かりがついていたのだが。

 店の前に,貼り紙があるが,なにせひとつも読めない。

 ガックリである。

 しばらく,同じような店を探して歩いてみるが,どうも,これといったものに出くわさない。

 しかたなく,観光客相手の店にはいって,ナシゴレンやバリコピなどの定番食をとる。

 辛さが少し,おさえられている。

 ホテルにもどるが,やはり天気はシャンとしない。

 泳ごうという気持ちになれず,ビーチをブラブラ歩くことにする。

 

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 たくさんの漁船が停泊している,北の港の方に歩いてみる。その向こうに空港がある。

 やせこけた犬たち。

 砂に穴を掘る小さなカニ。

 色とりどりの,たくさんの船。

 そして,はたらく人,やすむ人。

 こちら側にもならぶシーフード屋台の裏側なんぞも,ながめてみる。

 どうやら,サカナを焼く燃料には,ココナッツのカラがつかわれているらしい。

 そこここの厨房に,かわいたカラが大量に山積みされている。

 ホテルにもどり,少しの晴れ間を見つけて,プールで泳ぐ。

 しかし,またしても小雨が落ちてきたので,部屋にもどり,ゆっくりと風呂につかってみる。

 5時半,今夜は屋台はやめておこうと,またしてもテイクアウト屋さんに行ってみる。

 あいかわらずの辛さであり,あいかわらずのハナミズと汗である。

 この辛さには,ビールよりもコーヒーがあう。

 昨日の黒いワインのねっとりとした甘さも,この料理があってこそのものなのだろう。

 うまくできているものである。

 すっかり陽が落ちてから,中庭を散歩してみる。

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 あちこちにかがり火が焚かれているが,圧倒的に濃厚な闇のなかでは,その明かりも局地的なシミにしかならない。

 闇というのは,本当に黒いものなのだと納得させられる。

 部屋にもどると,天井から水がもれている。

 こいつはびっくり。それも,ボタボタ,ボタボタとかなりの量である。

 「雨漏り?」と,半信半疑でフロントに連絡してみる。

 しばらくすると,チーム技術者がかけつけてくれて,直してくれる。

 天井をとおる,スプリンクラー用の配管に問題があったようだ。

 まるで言葉はつうじなかったが,なんとなくそんな気がした。

 11時にはバッタリ眠る。

 

2003年9月11日(木)

 8時起床の朝である。

 もっと寝ていていいのだが,しかし,グッスリ眠った気分である。

 朝からのペコポコパコボコは,朝飯の支度ができているという,レストランからの合図のようだ。

 今朝も,外はドンヨリ曇り。

 今年はこんな天気なんだなというあきらかめが次第についてくる。

 ベランダで,コーヒー片手に「マルクスの人」となる。

 そのうち,空からザーザーの雨。こういうのをスコールというのだろうか。

 日本では,ちょっとみられないほどのはげしい降りである。

 やはり,すでに季節の変わり目なのか。

 身動きがとれないので,仕方なく,初めてホテルのバイキング朝食をとる。

 ものすごい種類のくだものがならんでいるのに驚き,そして,ひさしぶりにヨーグルトを食べる。

 まだ,雨がふりつづけているので,そのまま,ホテルのあちこちにある彫像や絵画をながめて歩く。

 よくみると面白いものが多い。

 大きな会議室があることにも初めて気づく。

 なにやらエライさん風の人たちが集まっているようだ。

 部屋にもどり,ゴロゴロしながら時の流れをひたすら待つ。

 2時になって,ようやくプールへ出る。

 陽はささないが,それでも泳ぐに十分の水温ではある。

 1時間ほど水につかり,部屋にもどって,今度は風呂につかる。

 ここでも「マルクスの人」となる。

 そのうち,ハラがへってきたので,こっそりカップヌードルを食べてみる。

 愛想のないコンビニで買っておいた,こちらもののヌードルである。

 やはり,辛い。しかし,味はよく,麺は日本のものとかわらなく思えた。

 フタをあけると,中から,折りたたみ式のフォークがでてきて,ちょっと驚き。

 5時30分には,ロビーでツアーのガイドさんと会う。

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 今夜は,ケチャック・ダンスを見にでかけるのである。

 クルマでつれたていってくれるのだが,この運転がすごい。

 大量のバイクも走る,混雑した道路を,時速80キロから100キロでクルマはぶっとぶ。

 あちこちでクラクションがなり,そのたびに,運転手さんは「チッ」といった「気にいらんぞ,オレは」の顔をしている。

 車線無用,ルール無用のデッドヒートである。

 「道路とは何か」。「運転とは何か」。そこの理解が,根本的に日本とはちがうようである。

 そのコワイくるまのなかで,「日本人はケチャックが好きですね」と,ガイドさんが笑っている。

 6時30分から,ダンスをみる。

 たくさんの男たちが,両手をあげて,チャッ,チャッ,チャッ,チャッと声をあわせる例のアレである。

 だが,このダンスには,しっかりとしたストーリーがあるのであった。

 まるで知らなかった。

 くばられた紙には,ケチャックは,かつては「恍惚状態にある娘たちが踊るサンヤンという踊りにともなったコーラス」だったとある。

 それが,いまは「ラーマヤーナ物語をもとに踊られている」と。

 すじがきは,悪魔の大王ラワナにさらわれた妃のシタを,王子ラーマが鳥や猿の助けもかりて奪い返すというもの。

 チャッ,チャッ,チャッ……は,王子に協力する猿たちの鳴き声なのだという。

 全5幕のしっかりとした話であった。

 ここで,期せずして,わがデジカメの性能の集光力の弱さを痛感する。

 まわりのコンパクトなデジカメたちが写しているその画面が,わが巨大デジカメにはできないなのである。

 3年半ほど前に買ったものだが,そのときに「安物買い」に走ったことが失敗だったようだ。

 それでも,最後に,悪魔の大王に正面から写真をとらせてもらい,満足する。

 さすがは,ワルモノ同士である。

 海をこえて連帯の心情がつながる。

 帰る途中,聞いてみると,このガイドさんは,バリの雨季は11月から3月だという。

 三者三様。それぞれみんな,ちがうことをいう。

 遅くなったので,残念だが,夕食はホテルの中でとることにする。

 途中,またしても雨が降ってきて,テーブルの移動をしたりする。

 頼んでもいないものが出てきたのは,そのせいだったのだろうか。

 かまわず食って,おかげでハラは満腹である。

 9時からは,これまたディスカバリーで「スイミング・ライオン」を見る。

 水辺の近くで狩りをするライオンが,静かに犬かきならぬ,ライオンかきをするという映像であった。

 せめて,平泳ぎくらい見せてくれるとうれしかったのだが。

 

2003年9月12日(金)

 8時30分起床。

 洗面所のゴミ箱に,ネズミとまちがうほどの大ゴキブリが出たと相方がさわいでいる。

 どうも,カップヌードルのカラが集客の原因だったようだ。

 こちらのゴキブリは,あの辛さにもまけない力があるようである。

 今朝も小雨が落ちていたが,10時にはすっかりあがってくれた。

 日差しが強くなるのを待って,11時30分には外に出る。

 例の超庶民派地元メシ屋が,やっと開いていた。

 うれしい。

 よろこんで入り,壁にかけられた,去年と同じメニューをながめて,なつかしい食べ物を注文する。

 しかし,経営者家族はかわっているようだ。

 注文をとってくれる子どもたちだけでなく,厨房で大きなナベをふっているオトウサンも,去年とはまるで別人だった。

 こういうことは良くあることなのだろうか。

 チビッコにあげようともってきたアメ玉は,これで,行き場を失ってしまった。

 ホテルにもどり,1時には,今年初めて,海に入る。

 アタマから大きな波をかぶって,しばらく遊び,さらに,相方の決断にしたがい,ボディボードに挑戦してみる。

 相方ともども初体験だが,やってみると,これがなかなか面白い。

 波をこえて沖に向かうのは大変だが,何度か,気持ちよく波の流れにうまくのることができ,

 また,何度かは,上下逆さまに波のなかを,ころげまわるハメにおちいった。

 プールにも入り,3時には,部屋にもどる。

 途中,「白ペンキ塗り立て」の壁に意表をつかれ,甚平の左ソデを一部やられる。

 作業中の人が,シンナーでさかんにふいてくれた。

 風呂に入り,「マルクスの人」となる。

 6時には,再び,シーフード屋台に出ることにする。

 いちばん海よりのテーブルで,海に夕日が落ちていくのをゆっくりながめる。

 キレイなものだ。

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 そして,しばらくすると,暗い空に星が見えてくる。

 日本では地をはうサソリ座が,こちらでは雄々しく空をとんでいる。

 ビールを飲み,サカナをつついて,いい気分になっていく。

 8時には,またしてもディスカバリー・チャンネルの人となる。

 今夜のテーマは,「冬眠あけの動物たち」。

 北アメリカの主人公は,巨大なグリズリーであった。

 さらに,部屋でビンタン・ビールを飲みながら,10時30分には,グッスリ眠る。 

 

2003年9月13日(土)

 今朝の起床は9時30分。

 11時間も眠っている。昨日のボディ・ボードのつかれのせいか。

 ホテルにもらった3~4種類のくだものを食べる。

 何か,よくわからないが,それなりに,どれもおいしい。

 のばしっぱなしのヒゲのために,顔の日焼けが,上下2段にわかれている。

 そのことに気づいて,ひさしぶりにヒゲをそりそりする。

 終わってみると,確かに,そこだけ顔が白い。なんとも,マヌケな状態である。

 11時30分,3回目のテイクアウト屋へと,ブラブラ歩く。

 ホテルをでたところで,40センチほどのトカゲが,大きなカエルをくわえて壁をのぼるのを見る。

 別に,珍しいことではないのだろうが。

 テイクアウト屋では,もう,ヤアヤアと笑ってあいさつができる。

 向かいの店のチビッコ用にもっていったアメ玉は,結局,この店で活躍することになった。

 持ち帰って,ベランダで食べる。

 ヒドク辛いものは避けてみた。とはいえ,ヒドク辛くはないものたちも,それなりには,やはり辛いのである。 

 ダイエット・コーラで食べても,口のまわりがかるくはれる気がする。

 獰猛なヤツらである。

 空は,見事な晴れ。

 スカッとぬけた,今シーズン,最高の空である。

 今日もまた,まっすぐに海に向かい,ボディ・ボードに挑戦する。

 一昨年の夏には,「水に入る=生命の危機」であったから,人間,かわればかわるものである。

 せまりくる大波にのるのはむづかしいが,くだけつつある波なら,たいがい乗れる。

 そんな波でも,うまくいけば,20メートルくらいは走らさせてもらえる。

 これが,なかなかいい気分。どうも,「やみつき」というやつのようである。

 プールにはいって,クールダウン。

 ソフトクリームをなめつつ,ビーチでごろ寝。

 そして,執念深く「マルクスの人」となる。

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 部屋にもどって,ひとここちつき,6時30分には,おもむろに,シーフード屋台へと向かう。

 例の青年とあうのも,今年はこれが最後である。

 いつものように食べて,飲んで,海をみて,空をみて。

 最後は,青年がとびだしてきて,わかれを惜しんでくれる。

 いつものように,屋台のケムリのにおいをシャワーで流し,10時半にはバッタリと寝る。

 深夜2時,突然の腹痛で目をさます。

 しかし,ここで正露丸が,いいはたらきをする。

 あの猛々しい色と,猛烈なニオイの勝利である。

 えらいぞ,正露丸。

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 単純に,辛いものの食べ過ぎだな。

 しばらく起きて,椎名誠『地球の裏のマヨネーズ』(文藝春秋,2003年)を読み終える。

 あいかわらず,シーナは,はげしく地球を移動し,正しく各地でアホバカをし,そして,山ほどモノを書いている。

 あまりにハードな生活だとは思う。

 しかし,一面,すばらしく,うらやましい人生である。

 

2003年9月14日(日)

 さて,最後の朝である。

 10時すぎには起き上がり,今朝はホテルの朝食バイキングへと出向く。

 胃腸をあまりに辛いものから守ろうという,防御の姿勢のあらわれである。

 例によって,ヨーグルトをたっぷりと食べる。

 これでハラの調子も平常にもどった。

 今日も天気がいい。

 12時には,時間に背中をおされる気分で,海へ向かう。

 もちろん,今日も,ボディボードである。

 今回のバリ訪問で,最高の空が見える。

 ボードに乗って,波のこない沖へと出る。

 そして,しばし,プカプカ,プカプカ,太陽の光をあびる。

 気がつくと,浜にむかって,立ち上がり,くずれていく波が見える。

 こんなふうに波を裏側からながめるというのも,初めてである。

 方向を変えると,空港の飛行機が,ちょうど水平線の上に見える。

 光や,海や,波とわかれを惜しみ,プールでクールダウン。

 3時前には部屋にもどって,サクサクとかたづけをしていく。

 4時には,チェックアウト。

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 ガイドさんにひきつれられて,お決まりの免税店街へ。

 別に,こんなところでの買い物には興味がないが,ツアーに組み込まれているのである。

 飛行機までの時間をつぶす必要もあり,紹介された店をブラブラ歩いてみる。

 ガイドさんのつれあいが,このなかの店につとめているというので,顔を出し,御夫婦の写真を記念に撮らせてもらう。

 女性上位の力関係があからさまだが,それもまた,新婚のお2人には微笑ましい光景であった。

 ツアーだから「無料です」という,料理屋さんで軽く食事をとるが,ホテル周辺の超庶民店のほうが,われわれの口にはあう。

 すばやく免税店を出て,近くの地元大型スーパーに突撃してみる。

 こういうところで食材を見るのは楽しい。

 つくりはカルフールに似ている。

 くだものは異常に安くて豊富。

 十分刺身でいけそうな,新鮮なサカナもキレイにならんでいる。

 日本のものも多く,スナック,豆菓子,それに豆腐が何種類もならんでいた。

 比較的高級なスーパーということになるのだろうが,家族づれ,サンダルばきで,気楽に買い物に来ている人は多い。

 ちょいと買い物をして,近くの喫茶店に入る。

 コーヒー専門店であり,「アボガド・コーヒー」なるものに強く心をひかれる。

 しかし,「失敗の可能性」を考えて,やめにする。

 ここでも,姿勢は全体として防御にまわっている。

 しかし,普通のコーヒーはとてもおいしく,ケーキも実にうまいものだった。

 ガイドさんと落ち合い,7時前には,空港に入る。

 スーパーで買ったお菓子やくだものをガイドさんに渡して,お礼をいう。

 「奥さんにね」というと,恥ずかしそうに笑っていた。

 搭乗手続きをとり,そして搭乗時間を待つ。

 ロビーにじっとしていると,手のひらに,500円玉,100円玉,50円玉をたくさんのせて,

 「1000円札とかえてくれ」という,じつに怪しい男がやってくる。

 わけがわからんので断ってみたが,これが空港内店舗ではたらく制服を着ているからややこしい。

 なんなんだろう,あれは。

 自宅への土産として,白頭ワシ(たぶん)のタコを買う。

 図柄が手書きなので,ワシも1つずつ,顔つきがちがう。

 いちばんキリリとしたのを買ってみる。わが家には,空をとびたがるものが多いようだ。

 9時20分,デンパサール空港を飛び立つ。

 窓から,シーフード屋台の明かりが見える。

 簡単な夕食が出て,まもなくジャカルタに到着。

 ここでまた,しばらく時間をつぶして,12時20分(ジャカルタ時間で11時20分)には,日本へむけて再離陸。

 ジャカルタの空は雨であった。

 JALの「人間ブロイラー化計画」が再開されるが,ここでの軽食は断り,相方ともどもウイスキーに徹していく。

 「明日から日本で仕事だ」。

 そう思うと,なんとも気持ちがうまく落ち着かない。

 本を読み,酒の力でウトウトしていく。

 2時間ほども寝たのだろうか,ぼつぼつ日本時間の6時らしい。

 外は一面の雲。

 ラピュタでおなじみの「龍の巣」が,いくつも見える。

 その一方に,秋らしい雲もひろがり,季節の変わり目は日本も同じようである。

 しばらくすると,その雲のうえに,見事に太陽がのぼってくる。

 スッチーたちが,笑顔でブロイラーたちを起こしにかかり,

 さあ顔をふけ,ふいたらおしぼりをかごにいれろ,さあメシを食え,さあコーヒーを飲めと,いつもの作戦を展開しはじめる。

 今朝は,つい,この作戦にのせられて,メシを食ってしまう。

 脳味噌の一部がブロイラー化したかも知れない。

 8時前には,ポワワンと,関空に着陸。

 わが身軽なリュック部隊は,ただちに空港をでて,JR「尼崎」行きの空港バスに乗る。

 「今年は無理か」のさみしいあきらめ気分にはじまった,今年のバリ旅行は,これにて無事(?)全編の終了である。

 また1年,しっかり働かんと,しゃあないわな。 

 Jonathan Wolff,WHY READ MARX TODAY ? (New York:Oxford University Press,2002)を,ゼイゼイいいながら読み終える。

 ソ連崩壊後,欧米では大学のマルクス関連講座がふえるなど,マルクス研究が活発化の傾向にある。

 しかし,そこで,なにが論じられているのか。

 そのことに興味をもって読んだもの。

 経済学の「危機論」的解釈など,旧ソ連型の古くささも見えるが,他方で,マルクスを自主的に検討しようという姿勢も見える。

 島田紳介・松本人志『哲学』(幻冬舎文庫,2003年)を読み終える。

 その時々の自分を,どうやっていかしていくか,その戦略を考える紳介の人生「哲学」はなかなかに面白い。

 どんな分野にすすもうとも,結局,人間,自分を俯瞰してとらえる器の問題だなと思わされる。